2026/08/25 14:54

「可愛くないね」の呪いから、自分への許しへ


ひとつぶ屋を始めるずっと前、私は「好きなものを、好きと言えない人」でした。

小さくて可愛いものが、本当は大好きでした。

キラキラしたアクセサリー。お姫さまのイラストが描かれたノート。レースで縁取られたハンカチ。手に取るだけで胸がときめくのに、自分が身につけることはできませんでした。

「あなたは、ちっとも可愛くないわね」

幼い頃から、何度も浴びてきた言葉です。

見た目のことなのか、子どもらしい可愛げがないという意味なのか。大人になった今なら、その違いを考えることもできます。でも、子どもだった私には区別できませんでした。

言われるたびに、自分は人より劣っているのだと思いました。

欲しいものを「欲しい」と言えなかった

幼なじみの女の子は、いつも可愛いものを持っていました。

リボンのついたカチューシャ、フリルのハンカチ、レースのブラウス、サンリオの文房具。私はそれが、羨ましくてたまりませんでした。

私の家は、四人の子どもを母が懸命に働いて支えている、経済的に余裕のない家庭でした。小学校の家庭科で使う裁縫セットも、いとこのお下がり。クラスメイトが新品のキャラクター柄を持つ中、私は古びた裁縫箱を使っていました。

それを見られるのが、ものすごく恥ずかしかった。

みんなと同じものを持っていない。買ってもらえない。持っているものが格好悪い。それが、そのまま自分の価値なのだと思っていました。

裁縫そのものは得意でした。手先の器用な母の影響で、幼い頃からフェルトのぬいぐるみを作り、先生にも細かく丁寧で綺麗だと褒めてもらいました。

けれど、その頃の私が欲しかったのは、作品への評価よりも「みんなと同じものを持っていい」という感覚でした。

親に何かをねだることは、家計を困らせることだと感じていました。「私も新品が欲しい」と言って拒まれ、傷つくことも怖かった。

だから、私は先に諦めました。

「私は可愛いものが好きじゃないから、いらない」

本心とは反対の言葉を口にして、自分を守るようになりました。

可愛いものから、自分で遠ざかっていった

服はいとこのお兄ちゃんのお下がりばかり。それも「私はボーイッシュだから」と説明しました。

本当は可愛いものが欲しいのに、欲しくないふりをする。似合わないと言われる前に、自分から距離を置く。

「無理していると思われる」

「似合わないと笑われる」

「可愛くない私が身につけたら、痛々しいと思われる」

そんな想像が、いつしか誰かの言葉よりも強く、私自身を縛るようになりました。

私は生まれつき噛み合わせが悪く、背丈も小学六年生で166cmありました。周囲から投げられたのは、「でかい」「ゴツい」「男みたい」という言葉でした。

十歳になる頃には、「可愛い」「可憐」という世界と、自分の間に、越えられない境界線があるように感じていました。

強さを鎧にした日々

成長した私は、ゴシックファッションとゴシックメイクにのめり込みました。

黒い服。重厚なシルバーアクセサリー。大胆なバックルのブーツ。真っ黒なアイシャドウと、ワンレングスの黒髪。

黒は、すべてを隠してくれる。

可愛いと言われなくてもいい。誰にも侮られず、「怖い」「強そう」と思われれば傷つかずに済む。そんな鎧を、私は自分で作り上げていきました。

けれど、「個性的でかっこいい」と言われても、心は満たされませんでした。

私が本当に求めているのは、この姿でも、周囲からの反応でもない。

そのことには、気づいていました。

それでも三十代に入る頃まで、黒ずくめの威嚇的な格好をやめられませんでした。無防備な心を守る方法を、ほかに知らなかったのだと思います。

求めていたのは、「自分への許し」だった

私が本当に欲しかったのは、誰かの評価よりも深いところにある、自分自身の感覚を信じることでした。

自分がときめいたものを、自分の意思で選ぶこと。

人にどう見られるかを先回りして諦めず、好きなものを好きだと認めること。

私の在り方を、他人に決めさせなくてもいいと思えること。

求めていたのは、そうした「自分への許し」でした。

ひとつぶ屋という名前には、今、「あなたとご縁のある一粒を見つけてほしい」という願いを重ねています。

天然石の意味も、装い方も、惹かれる理由も、誰かに正解を決めてもらう必要はありません。自分の内側にある願いへ意識を向け、その願いを託したい一粒を、自分で選ぶ。

ひとつぶ屋は、その選択を美しいかたちにする、小さなメゾンでありたいと思っています。

この物語は、まだ始まったばかりです。

次回は、強さを鎧にしていた私の人生が、結婚生活の中で大きく動き始めた頃のお話へ続きます。

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シリーズ案内

この連載は、店主自身の劣等感と生きづらさが、天然石との関わりを通して、ひとつぶ屋という店へ結びつくまでの記録です。

元の全4話は、noteマガジン「コンプレックスを、パワーストーンで乗り越える。」でもお読みいただけます。

https://note.com/hitotsubu_ya/m/m34b3d464b1e6